幼い頃、実家の応接室には祖父の机があった。そこは、法律が誰かの人生を支える場所だった。法務局に長年勤め、晩年は司法書士として働いていた祖父。やがてその祖父が「本当は弁護士になりたかった」と語っていたことを知る。その言葉は、小澤裕也の心に静かに残り続けた。学業での挫折、司法試験への挑戦、激務による体調不良。それでも彼が法律を手放さなかったのは、争うためではなく、“争いのない、誹謗中傷のない環境を創るため”だったからだ。いま建設・不動産業界に特化したリーガルサービスを展開する小澤氏。その軸にあるのは、“紛争を起こさない”という新しい弁護士像である。

――司法試験を目指されたきっかけから教えてください。
一言で言うと、祖父の存在です。祖父は法務局に長年勤め、晩年は司法書士として働いていました。実家の応接室が事務所だった時期もあり、幼い頃の私は、祖父の働く姿を間近で見ていました。将来は祖父のような仕事をしたい、幼心にそう思っていました。
祖父は早くに亡くなりましたが、後に母から「本当は弁護士になりたかった」と聞きました。その言葉を聞いて「祖父がなれなかった弁護士に、自分がなりたい」と強く思いました。それが弁護士を目指した原点です。
――合格までの道のりで、心が折れそうになったことはありませんでしたか。
高校に進学してから、成績が一気に落ちました。中学校までであればとったことがないような順位になり、「勉強ができる」という自分のプライドが木っ端微塵になりました。そこからは、勉強をやってもやってもできない、という感覚が大学、大学院と続き「俺は勉強ができないんだ・・・」と自信喪失していました。
司法試験も一度は失敗しました。ただ、そこで諦めるという選択肢はありませんでした。祖父の想いを継ぐという覚悟もありましたし、「ここで人生を終わらせたくない!」という強い想いがありました。合格した友人や先輩に頭を下げて教えを請い、その通りに勉強をやり直した結果、司法試験を無事突破できました。
目次
――弁護士としてのキャリアで、最も大変だった時期はいつですか。
弁護士3年目、建設会社の大型倒産案件を所長と二人で担当した時です。深夜までの業務が続き、体調も崩しました。弁護士になって最初の5年はなるべく厳しい環境で修行する、と決めていましたし、当時の所長は努力家で、しっかりと私を鍛えてくださったので、理想の事務所ではありました。ただ、体調を崩したことがきっかけとなって「今後を真剣に考えないと先はない」と初めて本気で自問しました。
その後、事務所を移籍してからも、多くの労働紛争や大型の建築紛争、不動産が絡む大きな案件に携わる機会を得ました。金額も大きく、利害関係者も多く、人々の悩みも深い。常に緊張感のある現場でした。
ただ、その中で感じたのは、「全ては人間の営みである」ということでした。特に、建設や不動産などの業界はそうなのですが、人と人の信頼関係、いわば「義理」「人情」が凄く重視されています。ですから、ある種、「法律」というものが縁遠い業界でもあります。契約書が整っていないことも多く、約束は口頭が当たり前、という場面にも多く遭遇しました。
ですが、そのような中で痛い目を見て、最悪、泣き寝入りをしてしまう建設会社の方、不動産関係の方に多く出会ってきました。義理や人情、人の思いが大事な業界「だからこそ法律が必要なのだ」と痛感しました。

――独立を決めたきっかけは何だったのでしょうか。
私個人の顧客が増え、所属事務所の案件と、私個人の案件との両立が難しくなってきたことが大きな理由です。「このままでは事務所に迷惑をかける。」と強く思いました。お世話になった方々に迷惑をかけるのは、私の信念に反します。
迷惑をかける前に、自分で責任を取る。それが独立でした。正直に言えば、不安がなかったわけではありません。それでも、自分を信じてご依頼いただいている方々のために、全力で動くためには、この選択しかありませんでした。
独立すれば自由になれると思っていましたが、実際には法律業務に加え、経営や会計・経理、細かい雑務なども自分が行わなければならなくなり、むしろ忙しくなりました。ただ、自分の思ったとおりに事務所を運営できる。自分の独自色を100%出せる。その自由は何ものにも代えがたいものです。
アクセルサーブ法律事務所は、「安心できる人生・事業のパートナー」であることを大事にしています。「法律」はあくまでツールです。法律をどう使って、安心できる人生や事業を作っていくか、その点を一緒になってお客様と考える、そんな事務所でありたいと思っています。
「人生・事業を加速させるために奉仕する」それが事務所名に込めた思いです。
――交流会やセミナーにも積極的に参加されていたそうですね。
弁護士として自立するためには、自分で顧客を獲得する力が必要だと考えました。営業経験はありませんでしたが、人と会って話すことは好きでしたし、周りの人々に会うことは営業の能力がなくてもできることですので、まずは直接人と会うことから始めました。
会食や勉強会を重ねる中で、信頼関係が築かれていきます。もちろん効率は良くありません。しかし、直接会って、お話しして、人となりを知って・・・という「人間としての信頼」を一つ一つ積み上げるのは、今でも楽しいです。こうして積み上げていく信頼は、効率化できないと考えています。
相談しやすい空気をつくること。顔が見える関係を築くこと。「人」の側面を大切にすること。それを疎かにする弁護士にはなりたくありません。
業界団体での講演や勉強会にも登壇し、建設・不動産業界の法務リテラシー向上にも力を入れています。
――現在は紛争予防に力を入れていると伺いました。
建設会社、不動産会社や個人の不動産オーナーをお客様が多く、顧問として継続的に関わっている会社さんも多くあります。建設関係の請負契約、下請トラブル、労務問題、不動産絡みの相続や事業承継まで、業界ならではの問題に多く向き合い、経営の根幹に関わる場面にも多く立ち会ってきました。
建設・不動産業界において特に感じることとして、「弁護士に相談するのは、本当にどうしようもなくなったときの究極の手段」と考えている方々が多いことが挙げられます。弁護士なんて、入れたくない、と思うのは、一般的な弁護士のイメージを考えたら、「それはそうだな」と思います。しかし、私は、その前段階、つまり「揉める種が出てきたな、出てきそう」という段階でこそ弁護士が関わるべきだと感じてきました。「争いが起きる構造そのものを放置していること」、「揉める前に法律のノウハウを使って『揉めなくする』のが一番効率が良いのに、みなさんがそれをしていないこと」に、違和感を持っていました。
単発の紛争対応ではなく、事業全体を俯瞰しながら「リスクを設計する」ことが私の役割だと考えています。紛争がうまく解決できたとしても、お客様は消耗します。お金も時間も失われ、精神的な負担も大きい。
それならば、最初から紛争が起きないようにしたほうが百倍いい。
リスクは「発生頻度×発生時のインパクト」で考えます。両方が高いものから優先的に備える。残業代問題や労働紛争はまさにそうです。
ゼロリスクを目指す必要はありません。想定内に収めることが重要です。証拠を残し、未来図を共有し、備える。それが紛争予防の本質です。
――小澤先生が最も大切にしている価値観は何でしょうか。

誠実であることです。
私にとって誠実とは、約束を守ること、自分が不利になっても事実を曲げないこと、真心をもって眼の前の方々に接することです。お金や自己都合で判断を歪め、約束を破り、真心を二の次にした瞬間に、信頼は崩れます。
若手時代に師事した所長は厳しい方でしたが、常に誠実でした。その背中から学んだことが、いまの自分の軸になっています。
――いまのご自身があるのは、誰の支えがあったからだと感じますか。
祖父や所長だけでなく、家族、事務所のメンバー、これまで信頼して相談してくださったお客様です。私は一人で戦ってきたわけではありません。多くの身近な方々に支えられてきたからこそ、いまがあります。
家族は、私が仕事に専念できるようにたくさんのサポートをしてくれています。事務所のメンバーが頑張ってくれているからこそ、今日までここまで事務所を発展させることができています。顧問先の社長や役員の方々はみなさん、それぞれ経営をしているわけですが、人間性に優れ、ビジネスの観点でも世の中に有用なモノやサービスを提供している方々がたくさんいらっしゃいます。
このように多くの受けた恩を、多くの恩人たちに返し、次の世代や次のお客様にも全力で向き合うエネルギーにしたいと思っています。
――3年後、5年後の理想の未来を教えてください。
家族や事務所メンバー、お客様と一緒に祝杯をあげたいですね。
単に売上が伸びた、という話ではなく、「あの時一緒に活動できてよかった」と言い合える瞬間をつくりたい。日本一、縁ある人々の最高の幸せのために貢献し、縁ある人々が幸せで満たされた環境を共に創る、すなわち「最高の幸せの共創」こそが、私が目指す未来です。
私は社会全体を変えたいというより、まず自分の周りから「負」をなくしたい。誹謗中傷や足の引っ張り合いのない環境をつくりたい。
出る杭は打たれるのではなく、「もっと出ろ」と言える社会にしたいのです。
――かつての自分のように悩んでいる経営者に、いま伝えたいことは。
一人で抱え込まなくていい、ということです。経営は孤独ですが、孤立する必要はありません。誰かに相談することは弱さではなく、強さだと思っています。
――最後に、読者へ伝えたいことはありますか。
私は人間性と専門性の両立を大切にしています。建設・不動産業界に特化し、不動産絡みの相続や事業承継にも深く関わっています。経営者やオーナーの人生そのものに向き合いたい。
法律は争うための武器ではありません。人生を守るための静かな盾です。
「紛争をなくす」という挑戦は簡単ではありません。
それでも、その未来を設計することが弁護士としての使命だと私は信じています。
紛争を“解決する人”のみならず、紛争を“起こさないために力を尽くす人”でありたい。
その覚悟が、小澤裕也という弁護士の軸になっています。
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小澤 裕也
アクセルサーブ法律事務所 代表弁護士
HP: https://accelserve-legal.com/
建設・不動産業界に特化したリーガルサービスを展開 。建設関係の請負契約、下請トラブル、労務問題、不動産絡みの相続や事業承継など、業界特有の問題解決に強みを持つ 。「最高の幸せの共創」を事務所の理念とし、紛争解決のみならず、紛争予防を重視した各種法務を提供している 。
企業経営において、法的トラブルは資金と時間を奪うだけでなく、経営者の精神を大きく消耗させます。LIVE Doctorでは、トラブルが起きてから対処する従来型の法務ではなく、「紛争を未然に防ぐ」という予防法務の観点から企業を支える実践者を紹介しています。
小澤裕也氏は、口頭での約束や義理人情が重んじられる建設・不動産業界において、だからこそ法律という「盾」が必要だと提唱する弁護士です 。争うための武器としてではなく、事業と人生を守り、成長を加速させるためのツールとして法律を扱う同氏の姿勢は、リスク管理に悩むすべての経営者にとって、心強い参考材料となるはずです。